相続が発生した際、相続人は被相続人(亡くなった方)の財産や負債をどのように引き継ぐかを選択する必要があります。その選択肢の中で、「相続放棄」と「限定承認」は、特に負債が絡む場合に重要な判断となります。本コラムでは、これら二つの制度の違いや特徴、選択のポイントについて解説します。
相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人の財産や負債を一切引き継がない選択肢です。これにより、相続人は最初から相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。
特徴
- 対象: プラスの財産(預貯金、不動産など)もマイナスの財産(借金など)もすべて放棄します。
- 手続き: 各相続人が単独で家庭裁判所に申述可能。他の相続人の同意は不要です。
- 期限: 相続の開始を知った日から3か月以内に手続きを行う必要があります(民法915条)。
- 効果: 放棄した相続人は、最初から相続人ではなかったものとみなされ、財産や負債に一切関与しません。
メリット
- 借金などの負債を一切引き継がずに済む。
- 手続きが比較的簡単で、個別に行える。
デメリット
- プラスの財産もすべて放棄するため、後から価値のある財産が見つかっても相続できない。
- 放棄した場合、次順位の相続人(兄弟姉妹や甥姪など)に相続権が移り、負債が次順位の相続人に影響を与える可能性がある。
限定承認とは
限定承認は、相続財産の範囲内でのみ被相続人の負債を引き継ぐ選択肢です。つまり、プラスの財産を超える負債については責任を負いません(民法922条)。
特徴
- 対象: プラスの財産は相続し、マイナスの財産はその範囲内で弁済します。
- 手続き: 相続人全員が共同で家庭裁判所に申述する必要があります。他の相続人が反対すると手続きはできません。
- 期限: 相続の開始を知った日から3か月以内に手続きを行う必要があります(民法915条)。
- 効果: プラスの財産を活用して負債を弁済し、残った財産があれば相続できます。
メリット
- プラスの財産を活用して負債を清算できるため、負債が多い場合でもリスクを限定できる。
- 特定の財産(自宅など)を残したい場合に有効。
- 後から財産が見つかった場合でも相続可能。
デメリット
- 相続人全員の同意が必要で、手続きが複雑。
- 財産の換価や債権者への弁済など、手続きに時間と費用がかかる。
- 譲渡所得税が課される場合がある(みなし譲渡課税)。
相続放棄と限定承認の比較
項目 | 相続放棄 | 限定承認 |
---|---|---|
対象 | 財産・負債をすべて放棄 | 財産の範囲内で負債を弁済 |
手続き | 各相続人が単独で申述可能 | 相続人全員で共同申述が必要 |
期限 | 3か月以内 | 3か月以内 |
プラスの財産 | 相続しない | 相続できる |
マイナスの財産 | 相続しない | プラスの財産の範囲内で負担 |
後から見つかった財産 | 相続できない | 相続できる |
手続きの複雑さ | 簡単 | 複雑 |
費用 | 比較的安価 | 官報公告費用や専門家報酬が必要 |
選択のポイント
- 相続放棄を選ぶべきケース:
- 被相続人に多額の借金があり、プラスの財産がほとんどない場合。
- 財産に関与したくない場合や手続きを簡単に済ませたい場合。
- 限定承認を選ぶべきケース:
- 財産と負債のどちらが多いか不明な場合。
- 特定の財産(自宅や家宝など)を残したい場合。
まとめ
相続放棄と限定承認は、それぞれ異なる特徴とメリット・デメリットを持つ制度です。相続放棄は負債を完全に回避するためのシンプルな方法であり、限定承認は財産を守りつつ負債を限定的に引き継ぐ方法です。どちらを選ぶべきかは、被相続人の財産状況や相続人の意向によって異なります。迷った場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談し、適切な選択をすることが重要です。